序章:フトマニとは何か——三つの潮流の解読
「フトマニ」という言葉は、現代の日本において、古代の叡智と宇宙の原理を探求する文脈で頻繁に用いられる。しかし、その内実は一つではなく、歴史的・文化的に異なる複数の潮流が、この一つの名称の下に集約されている。ユーザーが提示した概要によれば、その名は目に見えない世界と見える世界を繋ぐ「フト(太)」と、意のままに願いをかなえる「マニ(宝玉)」に由来するとされる。
本レポートの目的は、「フトマニ」という概念の系譜学(Genealogy)を、学術的な視座から包括的に解明することにある。分析の結果、「フトマニ」は少なくとも三つの異なる、しかし現代において(意図的に)相互に関連付けられている領域を指していることが明らかになる。
- 考古学・民俗学の実践としての「太占(ふとまに)」:鹿の肩甲骨など獣骨を焼き、その亀裂によって吉凶を占う古代の占術(骨卜)。
- 文献学・古史古伝の宇宙観としての「フトマニ図(モトアケ)」:『ホツマツタヱ』などの「古史古伝」に登場する、48音の言霊(神々)を配置したとされる宇宙図(曼荼羅)。
- 現代スピリチュアリティの応用としての「フトマニ・システム」:上記の古代概念を「再創造」し、カード占い、ヒーリング、数秘術、身体技法などに応用する現代的な実践の総体。
本レポートが提示する核心的な論点は、これら三潮流は古代から現代まで一つの線で繋がっているのではなく、特に②の文献上の宇宙観と、③の現代的応用の間には、決定的な「解釈の空白」が存在する、という点である。具体的には、『ホツマツタヱ』には「フトマニ図」という「占い表」は存在するものの、それを用いた具体的な「占い道具」や「占い手順(マニュアル)」の記載が欠落している1。
この「マニュアルの欠如」こそが、フトマニという概念を理解する上で最も重要である。この「聖なる空白」こそが、現代の多様な実践者たちによる自由な「再創造」と「発明」を可能にする原動力となった。本レポートは、これら三つの潮流を個別に深く掘り下げ、それらの間の「関連性」と「断絶」を明確に描き出す試みである。
第1部:太占(ふとまに)の実践——骨卜(こつぼく)の考古学と民俗学
本質的な問いは、物理的な「占い」としてのフトマニ、すなわち「太占(ふとまに)」とは、具体的にどのような行為であったのか、である。この問いに答える鍵は、考古学的遺物と、現存する希少な神事の中にある。
1-1. 考古学的発見:弥生・古墳時代の卜骨
ユーザー概要では「縄文時代」の儀式とされるが、考古学的な知見は異なる時代を指し示す。日本列島における獣骨を用いた占術、すなわち「卜骨(ぼっこつ)」は、縄文時代には出土例がなく、弥生時代前期から出現する新しい祭祀である2。これは、大陸(中国や朝鮮半島)からの伝来説、あるいは北方狩猟民の文化の伝来説の対象ともなっている2。
使用される骨は、主に獣の肩甲骨であり、西日本ではイノシシ、東日本ではシカの割合が高いとされる2。弥生時代前期から始まり、古墳時代を経て奈良・平安時代まで続くこの占術は2、古墳時代後期以降になると牛馬骨が中心となるなど、時代と共にその様相を変えていく2。
その占術方法は、再現実験と遺物の分析から、以下のようなものであったと推定されている。
- 整地:まず、占いの結果(亀裂)を明瞭にするため、あるいは焼灼の熱を効率よく伝えるため、骨の表面を刃物などで擦る「ミガキ」や、肩甲骨の突起(肩甲棘)を削る「ケズリ」といった「整地」作業が行われた2。
- 焼灼:次いで、骨の表面に熱を加える。唐古・鍵遺跡や長崎県壱岐島のカラカミ遺跡の事例、および再現実験によれば、この焼灼には「モグサ(艾)」が使用された可能性が高い2。モグサを用い、骨の複数箇所(2〜3箇所)を同時に焼くことで、生じる亀裂を制御しようとしたと考えられる3。
特に注目すべきは、この卜骨の技術に「編年(時代的変遷)」が認められる点である2。
- 中期中葉(初期):肩甲骨の狭く厚い部分(肩甲頸)に焼灼が行われる。この段階では、熱が裏面まで達する痕跡はない2。
- 中期後葉(後期):焼灼箇所が、肩甲骨の広く薄い部分へと拡大する。それに伴い、熱変化が裏面にも及び、焼灼面(火を当てる面)と占い面(亀裂を読む面)が分化する2。
この技術的変化は、単なる手法の改良ではなく、占術儀礼そのものの「精緻化」または「専門化」を示唆している。薄い部分を焼くことで、より意図的に、あるいは複雑な亀裂を「占い面」に顕現させ、それを解釈しようとした可能性があり、占術がより体系化されたプロセスへと進化している証拠と見なすことができる。
1-2. 現存する神事:武蔵御嶽神社の「太占祭(ふとまにさい)」
考古学的な卜骨の実践は、その解釈方法(亀裂の読み方)が不明なまま途絶えたかに見えたが、極めて希少ながら、その儀礼の形態を現代に伝える神事が存在する。それが、武蔵御嶽神社(東京都)および貫前神社(群馬県)の二社のみに伝承される「太占祭」である4。
武蔵御嶽神社の太占祭は、毎年1月3日の早朝に執り行われる4。これは「秘事」として一般には公開されていない4。
目的:
この神事の目的は明確である。その年の農作物の実り、すなわち「早稲(わせ)」「おくて(晩稲)」「あわ(粟)」「きび(黍)」「ジャガイモ」「人参」など、定められた25種類の農作物の出来不出来(豊凶)を占うことにある4。
儀式の手順:
祭儀は前日(1月2日)の夕刻から始まる4。
- 斎戒と斎火:斎主(さいしゅ)・祭員(さいいん)ら6名が斎宿(いみやど)に入り、火鑚具(ひきりぐ)で神聖な「斎火(いみび)」を起こす4。
- 作物の割り当て:占う25種類の農作物名が25本の紙縒り(こより)に書き込まれる。
- 転写と作図:牡鹿(おじか)の肩甲骨の「形が紙に写され」、その絵の中心から「放射状に25本の線」が引かれる。斎主が紙縒りを引き、引かれた順に各線に農作物名が書き込まれていく4。
- 焼灼と祝詞:祭場の中心にある炉で、斎火を用いて実際の鹿の肩甲骨が焙られる。この間、「三種神宝祝詞(さんしゅしんぽう のりと)」が三度奏上される4。
亀裂の解釈:
儀式が終了すると、焙られた骨は社務所に持ち帰られ、宮司自らが測定し、豊作を「十」とした十段階で結果が判定される4。その解釈ルールは、「骨の中心から離れたところにヒビが入れば、その作物は不作となる」というものである4。
武蔵御嶽神社の実践4と、弥生・古墳時代の考古学的発見2は、鹿の肩甲骨を熱して亀裂で占うという核心部分において、明確な連続性を示している。
しかし、両者には決定的な差異もある。御嶽神社の占いは、「25種の農作物」という非常に具体的な目的と、「中心からの距離」という明確な解釈ルール4を持っている。これに対し、弥生時代の卜骨2が、具体的に何を占い、どのようなルールで解釈されていたかは、現在のところ考古学的には解明されていない。
そして、第1部の結論として最も重要な点は、考古学的な卜骨2にも、現存する御嶽神社の神事4にも、「フトマニ図(モトアケ)」や「ヲシテ文字」、あるいは「48音の言霊」といった、次章で述べる文献上の概念が介入する余地は一切見られないことである。この事実は、「太占(骨卜)」の系譜と、「フトマニ図(文献)」の系譜が、本来は別のものであったことを強く示唆している。
【表1:フトマニ三潮流の比較分析】
| 比較項目 | ① 太占(考古学・民俗学) | ② フトマニ図(文献・古史古伝) | ③ フトマニ(現代的実践) |
| 時代 | 弥生時代〜古墳時代2 | (伝承上)神代/(文献登場)近世以降? | 現代(20世紀末〜) |
| 媒体/典拠 | 鹿や猪の肩甲骨2 | 『ホツマツタヱ』5 | カード、図、身体技法、数秘術 |
| 目的 | 吉凶判断(詳細は不明)2、農作物の豊凶4 | 宇宙原理の記述、神々の座席図(曼荼羅)[概要] | ヒーリング、自己実現、運命開花[6, 7] |
| 担い手 | 古代のシャーマン/祭司 | 不明(S1)。『ホツマツタヱ』の伝承者 | 現代のヒーラー、占い師、スピリチュアル指導者7 |
| 現代への継承 | 武蔵御嶽神社等に儀礼として残存4 | 現代スピリチュアリティの「古代の叡智」の根拠として受容[7, 9] | シンクレティズム(諸教混淆)により多様化・拡大中[9, 10] |
第2部:フトマニ図(モトアケ)の宇宙観——『ホツマツタヱ』の解読
第1部で見た物理的な占術「太占」とは異なる系譜に、文献上の宇宙観としての「フトマニ」が存在する。これは『ホツマツタヱ』などの「古史古伝」に記されたとされる「フトマニ図(モトアケ)」を中心とする、言霊と宇宙の体系である。
2-1. 文献的基盤:『ホツマツタヱ』とヲシテ文字
『ホツマツタヱ』の伝承によれば、フトマニ図(モトアケ)は、宇宙の法則そのものを二次元の円形図に描き出したものであり、48音の言霊(ことだま)、すなわち48柱の神々を配置した曼荼羅(マンダラ)、「神々の座席図」であるとされる(ユーザー概要)。
この体系は、「アワウタ」と呼ばれる48音の古代歌謡と密接に関連している。伝承では、イザナギ(男性神)が前半24音、イザナミ(女性神)が後半24音を歌い、民の言葉の乱れを正すために広めたとされる。アマテル(天照大神)も毎朝これを唱え、心身を整えていたと信じられている(ユーザー概要)。
この宇宙観の基盤となるのが、「ヲシテ文字」と呼ばれる古代文字である。ヲシテ文字は、単なる表音文字ではなく、一つ一つの音が象徴的な意味を持つ「表意文字」としての側面を併せ持つとされる(ユーザー概要)。
- 母音(ア・イ・ウ・エ・オ):宇宙の五元素(空・風・火・水・土)を象徴する。
- 父音(子音):植物の成長サイクル(種、発芽、開花、結実など)を象徴する。
この体系は、それ自体で完結した一つの宇宙論(Cosmology)を形成している。言霊(音)が宇宙の根本的な構成要素(五元素)と生命の循環プロセス(成長サイクル)に直結しているという思想は、フトマニが単なる占いの図ではなく、「宇宙そのものや宇宙の原理原則を表す」概念であることの根拠となっている。
2-2. フトマニ図(モトアケ)の構造分析
フトマニ図は、宇宙の構造を反映した五重の同心円で構成されているとされる(ユーザー概要)。この図の起源については、『ホツマツタヱ』の伝承に基づく「起源神話」が存在する。
それによれば、アマテル神(天照大御神)が、このフトマニ図で吉凶を占おうと考え、自ら編纂の長となり、八百万(やおよろず)の神々に命じて歌を作らせた。その中から百二十八歌を選んで「太占(フトマニ)の紀(フミ)」を著し、占いの根源とした。古い伝承では、これが現代に伝わる御神籤(おみくじ)の起源の一つとも云われている11。
この文献上の「起源神話」は、第1部で見た考古学的な卜骨(弥生時代)2や、御嶽神社の神事(農作物の豊凶占い)4とは、全く異なる起源(アマテルによる編纂)を主張するものである。
【表2:フトマニ図(モトアケ)の構造と神々の役割】
| 階層 | 神々/言霊(音) | 役割/象徴する意味 |
| 中心(第1円) | アメミヲヤカミ | 天地創造のエネルギー。宇宙の絶対的な根源。 |
| 第2円(8神) | トホカミヱヒタメ | 寿命や運命の調整。根源のエネルギー(アメミヲヤカミ)を地上に下ろし、調整する力[11]。 |
| 第3円(8神) | アイフヘモヲスシ | 言葉と心の浄化。人間の内面(小宇宙)に働きかける力[12]。 |
| 第4・第5円(外側 32神) | ミソフ神(32神) | 容姿や日常の行動。現実世界(見える世界)における具体的な顕現。 |
2-3. 学術的論争と現代的受容
『ホツマツタヱ』および、そこに記されたフトマニ図やヲシテ文字は、その文献的地位について、江戸時代から現代に至るまで激しい論争の対象となってきた。
学術界の主流の見解では、『ホツマツタヱ』は『古事記』『日本書紀』(記紀)を参照して近世に創作された「偽書(Gisho)」、あるいは「古史古伝」の一つと見なされている5。
一方で、池田満氏ら一部の研究者や愛好家は、これを記紀よりも古い「真書(Shinsho)」、すなわち記紀の原書であると強く主張している5。その論拠として、例えば『ホツマツタヱ』では「ワニ(船の一種)」と記されているものが、記紀を編纂する際に「和迩魚」や「鰐魚」と誤解(誤訳)された、といった例を挙げている5。
この学術的な真偽論争は、現代のフトマニの受容において、逆説的な役割を果たしている。フトマニの「権威」は、その歴史的事実性にあるのではなく、むしろその**「反=正史性」(カウンター・ヒストリー)**に由来する側面がある。
近年、『ホツマツタヱ』が特定の政治運動(例:参政党の講座)や、特定の宗教団体(例:幸福の科学の大川隆法氏による霊言や映画化)の文脈で取り上げられている5。これは、『ホツマツタヱ』が「偽書」とみなされているという事実が、信奉者にとっては「体制側(記紀史観)によって隠蔽された、日本古来の真実の歴史」というナラティブ(物語)を強化する装置として機能していることを示している。フトマニ図が持つ神秘性や力は、この「隠された古代の叡智」という文脈によって、さらに増幅されるのである。
2-4. 決定的な「空白」:失われた環(ミッシング・リンク)
『ホツマツタヱ』に基づくフトマニ図の研究において、最大の難問であり、本レポートの核心的転換点となるのが、「実践方法の欠如」である。
文献研究によれば、『ホツマツタヱ』の文献には「フトマニ図」という「占い表」は存在するが、「①占い道具」および「③占い手順(マニュアル)」が記載されていない1。研究者たちは、「完成されたフトマニ図」が存在するにも関わらず、その具体的な使用方法が不明であるため、その解明努力を続けている1。
この「マニュアルの欠如」1こそが、フトマニという概念の系譜を理解する上で、最も重要な鍵となる。ここで、第1部と第2部の知見を統合すると、以下の構図が浮かび上がる。
- 第1部:太占(骨卜)2
- 具体的な実践(マニュアル)はある(鹿の骨をモグサで焼き、亀裂で占う)。
- 宇宙図(フトマニ図)はない。
- 第2部:フトマニ図(ホツマツタヱ)11
- 宇宙図はある(48神の曼荼羅)。
- 具体的な実践(マニュアル)はない1。
したがって、古代において「フトマニ図」を「鹿の骨」と組み合わせて占った、あるいは『ホツマツタヱ』に記された通りの占術が実践されていた、という直接的な証拠は、現在の資料からは見当たらない。
この「宇宙図はあるが、使い方が書かれていない」という**「解釈の真空状態」**が、第3部で詳述する現代のスピリチュアリストたちによる、**自由な「再創造」と「発明」**を可能にする「聖なる空白」となった。彼らは、失われたマニュアルを、現代的な手法を用いて自ら「再発見(あるいは創造)」しているのである。
第3部:現代におけるフトマニの再創造とシンクレティズム(諸教混淆)
本質的な問いは、「マニュアルなき宇宙図」は、現代においてどのように「実践」へと転換されたのか、である。第2部で示した「解釈の空白」1を埋める形で、フトマニは現代のスピリチュアリティと融合し、多様な形態で「再創造」されている。
3-1. フトマニカード:古代の叡智のオラクル化
現代のフトマニ実践において最もポピュラーな形態の一つが、「フトマニカード」である。これは、古代の「太占」を現代風にアレンジし、ヲシテ文字が記されたカードを用いて、誰でも手軽に扱えるようにしたオラクルカードである(ユーザー概要)8。
ここで注目すべきは、その目的の変容である。フトマニカードは、単なる吉凶占い(Divination)ではなく、カードに秘められたヲシテ文字の言霊の力を通じて、タマシヰ(魂)を癒し、心身の歪みを整える「ヒーリング」のツールとして位置づけられている6。神社でカードを引き、神々からのメッセージを受け取る、といった使い方もされる6。
このフトマニカードの実践方法は、これが古代の占術の「復元」ではなく、現代的な「発明」であることを明確に示している。フトマニカードの占い方(スプレッド、カードの並べ方)には、西洋のタロットカードで伝統的に用いられる「ホースシュー(馬蹄形)」や「ギリシャ十字」などの技法がそのまま応用されている14。
もし『ホツマツタヱ』にフトマニ図を用いた独自のスプレッド(展開法)が記されていたならば、西洋占術の技法を借用する必要はないはずである。これは、第2部で示した「マニュアルの欠如」1という「空白」を埋めるために、現代の占術実践者(例:言霊ヒーリング協会®の水谷哲朗氏ら7)が、最も身近で体系化されていた「タロットカード」14のオペレーティング・システム(操作体系)を導入したことを示す、典型的な「シンクレティズム(諸教混淆)」の事例である。
3-2. 言霊ヒーリングと「三密の調和」
フトマニの現代的応用は、カードだけに留まらない。「言霊ヒーリング協会®」に代表されるように、フトマニはヒーリング実践の哲学的基盤として用いられている。
言霊ヒーリング協会®は、「言靈は地球を救う」を理念に掲げ、「一家に一人ヒーラーを」というビジョンを掲げている7。その活動は、認定講座を通じて「言霊とフトマニの叡智」を基盤としたヒーラーを育成することにある7。
その実践哲学として導入されているのが、真言密教の開祖である弘法大師・空海の「三密」の智慧である7。三密とは、私たちの「行動(身)・言葉(口)・思考(意)」を一直線に整えることを指す7。この三位一体の調和が取れてこそ、言葉に宿る神聖な力(言霊の叡智)が輝きを放ち、その波動が心身を浄化するとされる7。
ここで行われているのは、フトマニ(古史古伝)と、日本最大の密教の祖である空海(確立された宗教的権威)との結びつけである。これは、フトマニ・ヒーリングの「権威付け」の戦略として非常に高度なものである。「隠された古代の叡智」(ホツマツタヱ)と、「確立された宗教的権威」(空海の三密)を融合させる7ことにより、この実践は、単なるニューエイジの技法ではなく、日本古来の精神的伝統の正統な後継者としての地位を獲得しようとする。
さらに、ユーザー概要によれば、セッションやヒーリング効果の確認には「キネシオロジー(筋肉反射テスト)」という身体技法も応用される。これにより、古代の叡智(フトマニ)、確立された宗教哲学(三密)、そして(疑似)科学的な身体技法(キネシオロジー)が三位一体となり、その体系はより強固なものとなっている。
3-3. 拡張する「フトマニ・ユニバース」:シンクレティズムの奔流
フトマニは、もはや単一の図や占術ではなく、他の多様なスピリチュアル・システムを接続するための「ハブ空港」または「プラットフォーム」として機能している。そのシンクレティズム(諸教混淆)は、あらゆる方面に拡大している。
- 事例1:数秘術との融合生年月日から「天」「人」「地」の数を導き出す「フトマニ数秘」と呼ばれる実践が存在する(ユーザー概要)。さらに、西洋占星術(ホロスコープ)を用いた鑑定と、『龍体文字』(ヲシテ文字とは別の神代文字)で書かれたフトマニ図を「おまけ」として組み合わせる占いサービスも見られる9。
- 事例2:身体技法との融合「フトマニ太極禅(HA-DO TAI-CHI)」と呼ばれる実践では、「陰陽太極図」(太極拳の象徴)と「龍体文字フトマニ図」のエネルギーを融合させるとされる15。これは言霊ヒーリング協会の水谷氏も主催しており(HA-DO TAI-CHI)10、「動く瞑想」(禅)と「波動」(太極拳)を統合し、心身を整える稽古会として展開されている10。
- 事例3:カタカムナとの並列フトマニと同じく「縄文コード」の一つ(あるいは「縄文時代の叡智」)として、「カタカムナ」が並列に語られることも多い17(ユーザー概要)。カタカムナは渦巻き状の言霊幾何学とされ、両者の宇宙観や言霊解釈の具体的な共通点や相違点が学術的に比較されることはないまま17、現代のスピリチュアル文脈では「双璧をなす古代の叡智」として併記される17。
なぜ、これほどまでに多様な(そして一見無関係な)実践(数秘術9、太極拳10、龍体文字9、真言密教7)が、「フトマニ」の名の下に集結するのか。
それは、フトマニ図(モトアケ)が「宇宙の原理原則」という究極の抽象性を持つためである。この抽象的な「神々の座席図」は、あらゆる思想(陰陽、五行、数秘、占星術、密教)を受け入れ、それらをマッピングすることを可能にする、非常に柔軟な器(うつわ)となる。
フトマニは、現代のスピリチュアリストたちにとって、自らの技法を「日本古来の叡智」に接続するための、**普遍的な「OS(オペレーティング・システム)」**として機能しているのである。
【表3:現代フトマニのシンクレティズム(諸教混淆)分析】
| 現代の実践 | フトマニ側の要素 | 混淆された要素(出典) |
| フトマニカード | ヲシテ文字、フトマニ図のエネルギー6 | タロットカードの展開法(ホースシュー等)14 |
| 言霊ヒーリング | フトマニの叡智、言霊7 | 弘法大師の「三密」(真言密教)7、キネシオロジー(筋肉反射テスト)[概要] |
| フトマニ数秘・占い | フトマニ図9 | 西洋占星術(ホロスコープ)、龍体文字(別の神代文字)9 |
| フトマニ太極禅 | フトマニの宇宙原理、龍体文字フトマニ図15 | 太極拳(陰陽思想)、禅(瞑想)10 |
結論:系譜の統合と未来
本レポートは、「フトマニ」という概念の解明を試みた。その結果、「フトマニ」が単一の古代の叡智ではなく、三つの異なる系譜の総称であることが明らかになった。
- 考古学的骨卜としての「太占(ふとまに)」2:弥生時代に始まり、鹿の骨を焼いて亀裂を読む、物理的な占術。
- 文献的宇宙図としての「フトマニ図(モトアケ)」1:『ホツマツタヱ』に登場する、言霊(神々)の配置図。
- 現代的スピリチュアル・プラットフォームとしての「フトマニ」7:上記を原典とし、多様な技法と融合した現代的実践。
本レポートの核心的論点は、①の考古学的実践と、②の文献的宇宙図が、古代において直接結びついていたという証拠は(現時点では)見当たらない、という「歴史的断絶」の指摘である。
さらに重要なのは、②の文献(ホツマツタヱ)における「マニュアルの欠如」1である。宇宙図は示されながらも、その具体的な使い方が記されていないという「解釈の空白」が、皮肉にも、③の現代的実践における爆発的な「創造的発展」を促す最大の要因となった。
現代の実践者たちは、タロット14、密教7、太極拳10、数秘術9といった既存の体系を「フトマニ」というOS(オペレーティング・システム)に接続することで、失われたマニュアルを自ら「再創造」している。
フトマニは、古代の物理的占術(太占)から、文献上の形而上学(モトアケ)を経て、現代の多様な自己探求・ヒーリング・身体技法へと、時代と共に変容し続ける「生きた概念」である。
その核心には、その名の由来(ユーザー概要)とされる、目に見えない宇宙の原理(フト)を理解し、それを現実に顕現させ、意のままに願いをかなえたい(マニ)という、人間の根源的な探求が時代を超えて一貫して存在しているのである。
